医師一家の生前対策

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相続破産の危機

相続対策では病院経営を安定させることも大切

診療報酬改定、患者数減少、競合との凌ぎ合い……経営環境は厳しさを増すばかり

 現在、病院の経営そのものが以前より難しくなってきている点について言及しておかなければなりません。

 病院経営が厳しくなっている要因の1つには、診療報酬の引き下げがあります。平成14年度から18年度にかけては、史上最大の下げ幅のマイナス改定が行われました。その後、何とかプラスに転じはしたものの、平成14年以前の報酬レベルには回復せず、平成26年度には再びマイナス改定が実施されました。平成28年度の改定では、診療報酬本体は0・49%のプラス改定ですが、これに薬価のマイナス1・22%、材料価格のマイナス0・11%を加味すると、全体では0・84%のマイナス改定になります。ほんの数パーセントとはいえ、経営に与える影響は小さくありません。

 その一方で、消費税は平成26年度より8%に引き上げられました。近い将来10%になれば、病院の利益はさらに圧縮されてしまいます。

 要因の2つ目として、高齢者の医療費負担が上がったことがあります。平成26年4月以降に70歳になられた高齢者を対象に、医療費の窓口負担が2割に引き上げられました。現役並みの所得がある高齢者は3割負担です。また、介護保険の制度改正による負担増も平成27年8月から始まりました。

 医療費の負担増を理由に受診を控える「医者離れ」が、高齢患者の間で増えています。

 さらに3つ目として、「競合との患者の取り合い」が挙げられます。病院経営が長くなると地域に競合ができ、患者の取り合いになって集客が伸び悩むことがあるのです。

 一般に、開業医の収入は開業して5〜9年でピークを迎え、以降は右肩下がりにだんだん落ちていく傾向にあります。院長自身の高齢化による自然な診療縮小も背景として考えられますが、いずれにしても、患者数の減少は、そのまま病院の利益に直結します。患者が一日平均で5人減ると、年間の利益(税引き前)は720万円減るという試算もあります。

 ほかにも、在宅医療の診療報酬改定や、看護必要度基準の変更など、医療を取り巻く財政や環境は大きく様変わりしています。それらはいずれも病院経営を楽にする方向ではなく、難しくする方向のものばかりです。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」を控えて、医療費の圧縮傾向は今後さらに加速していくものと予想されます。

 病院の経営難や赤字化が増えるということは、わが子に承継すべき病院そのものが、倒産などによって消滅してしまう可能性が高まることを意味します。

 いかに経営を安定させ、病院を永続していくかということも、広い意味で医業承継の一環といえます。傾きかけた病院を子に継がせるのではなく、集客力があり利益率の高い病院を継がせるにはどうすればいいか。開業医の親は、そういったことも考えていかなくてはならない時代になってきたのです。

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