医師一家の生前対策

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13のテクニック

テクニック12 相続人全員の思いを汲んで遺言書を書く

遺言書を残したせいで、かえって争族になるケースも。作成前に注意することとは

 被相続人の遺志を伝える手段として、遺言書はぜひ書いておくことをおすすめします。遺言書があったからといって争族が起きないわけではありませんが、なければほぼ確実に遺族は揉めるでしょう。きちんと想いが伝わる遺言書であれば、遺族の心を落ち着かせることができ、話し合いもいい方向に向かうはずです。

 その一方で、遺言書があったためにかえって揉めるケースもあります。要領を得ない、不備が多い、遺族の心情を考えていない、読み手によって解釈が分かれるといった場合です。これらは遺族を混乱させ、気持ちをかき乱し、遺産分割協議を難航させるもとになります。

 遺言書には「付言事項」を記載することができますので、遺産の額に偏りがあり、少なく相続する子には特に、「付言事項」としてフォローの言葉を残すといいでしょう。

 付言は、遺言書の最後に書き添える文章のことです。「今までありがとう」「これからも家族で仲良く」などのメッセージを書いたり、「法定相続分と異なる割合になったのは、こういう理由からだ」などという理由を述べたり、「病院は誰々に継いでほしい」などの要望や願いを伝えたりします。基本的に何を書くのも自由ですが、これが遺言者の最後の言葉になりますから、ぜひ遺族の心に響く文章になるよう工夫してみてください。

 さて、遺言書には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類があります。それぞれの特徴とメリット・デメリットは次の通りですが、一番推奨したいのは「公正証書遺言」です。

①自筆証書遺言……全文を自分で書く遺言

メリット
  • 紙とペンと封筒があれば、いつでも作成できる
  • 費用がかからない
  • 修正、作り直しが簡単
  • 証人が不要で、個人で自由に作り、保管しておける
  • 遺言の存在、内容を秘密にできる
デメリット
  • 不備があると、遺言として認められず効力を発揮しない
  • 故人の自筆であることを証明する「検認」を家庭裁判所で受けなくてはならない
  • 遺言書の存在自体に気づいてもらえないことがある
  • 紛失や隠匿、偽造、変造の危険性がある

②公正証書遺言……公証役場で公証人に作成してもらう遺言

メリット
  • 公証人に遺言内容を伝えて筆記してもらうため、公証人によるアドバイスやチェックが受けられる
  • 遺言者が公証人役場まで行けないときは、遺言者の自宅や病院などへ公証人に出張してもらうことが可能
  • 遺言書の原本が公証役場に保管され、紛失や隠匿、変造の心配がない
  • 万一、正本を紛失しても再交付を受けられる
  • 家庭裁判所の検認手続きが不要
デメリット
  • 作成に公証人の手数料がかかる
  • 遺言者が本人であることを証明するための実印や印鑑証明書などが必要
  • 作成には2人以上の証人が必要

③秘密証書遺言……内容を秘密にしたまま、存在のみを証明してもらう遺言

メリット
  • 遺言内容を明かすことなく、遺言の存在を公証人に証明してもらえる
  • 遺書が本物かどうかの争いが起きない
デメリット
  • 自筆であることを証明するための検認が必要
  • 遺言者自身で保管するため、紛失のリスクがある
  • 公証人は遺言の内容を知らないので、不備などのチェックは受けられない(無効となる危険性がある)

 遺言書は「元気なうち」に作成しましょう。病気になって気弱になってから作ると、冷静な判断がしにくくなります。また、認知症などが疑われてから作ると、その効力をめぐって死後に裁判になることもあります。

 遺言はいつでも何度でも訂正や取り消し、書き直しが可能です。折に触れて見直し、現状に合っているか、ベストな内容になっているか、作ったときと気持ちや考え方は変わっていないかをチェックしましょう。財産状況や経済情勢、結婚・離婚・出産などで家族構成などが変わった場合にも、遺言内容の見直しが必要です。

 なお、遺言書を作り直したときは、古い遺言書は破棄するようにしてください。遺言者の死亡後にいくつも遺言書が出てくると、揉め事の種になります。法的には日付の最も新しいものが効力を持つことになりますが、1通目と2通目で内容に矛盾があったときなど、遺族としては感情的に割り切れません。余計な混乱を招かないことが、遺される家族への最後の思いやりです。

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