医師一家の生前対策

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13のテクニック

テクニック4
出資持分を評価減して後継者に移転

評価が下がれば贈与税額も減る。出資持分をうまく贈与する4つのウラ技

 開業医の相続を難しくしている最大の要因は、出資持分の評価が高すぎることです。つまり、持分評価を下げることができれば、相続問題は一気にハードルが低くなります。

 評価を下げるべきタイミングは、決算期の直前です。次に挙げるような手段でできるだけ評価を引き下げておき、決算期を越えたらすぐに後継者に贈与を行えば、低い贈与税額で承継することができます。

 さて、医療法人の持分評価は、類似業種比準価額方式と純資産価額方式の併用になるケースが多いことは先に述べた通りです。そこで、まず類似業種比準価額方式について見ていきましょう。

 類似業種比準価額方式は、法人の「利益」「純資産」の値で決まります。特に「利益」は×3をするので、出資持分の評価に3倍の影響を与えます。つまり、利益の圧縮に重点を置けば、大きく評価が下がることになります。

 次に、純資産価額方式に着目してみます。

 純資産価額方式は、「相続税評価額」を減らす(=資産を少なくする)と同時に、「負債金額」および「評価差額の42%相当額」を増やす(=負債を大きくする)と、評価が下がります。これは利益を圧縮することと同義です。

 結局のところ、類似業種比準価額方式も純資産価額方式も、「利益の圧縮」をすればいいのです。

①役員報酬や従業員の給与を上げて人件費を増やす

 法人が役員に支払う報酬の額や、従業員に支払う給与の額を増やします。人件費が多くなることで、病院の利益は下がります。

 役員報酬には上限はありませんが、あまりに多すぎると不自然ですし、個人所得税も多くかかってきます。世間一般の常識と、個人所得税の負担額、法人の資金力を考え合わせてちょうどいい頃合いをはかる必要があります。

②理事長や役員の退職金として利益を一気に吐き出す

 退職金は数千万、場合によっては億単位の金額になるので、法人の利益をごっそり減らすことができます。

 退職金の額には一応の目安があります。計算式は、「最終の役員報酬月額×役員勤続年数×功績倍率」です。功績倍率は理事長なら3倍、役員なら2〜2・5倍程度が妥当なラインでしょう。

 理事長の直近の月額報酬が200万円、在任年数が20年、功績倍率を3倍とすると、退職金は1億2000万円になります。これはあくまで基準ですので、より高額でも構いません。あまりに常識外れの過大な額でない限りは、税務署がうるさく言ってくることもないでしょう。なるべく許容範囲内いっぱいに支払って、大きく利益圧縮するのが理想的です。

 ①で示したように、役員報酬を引き上げておくと、退職金を決めるときにも効果があります。

 ただし、理事長が受給した退職金を自分の資産として保有したままでいると、相続が起きたときに相続財産となり、相続税を押し上げてしまいますから注意が必要です。早めに贈与をするなり、不動産や保険など別の資産に換えるなりしておきましょう。

③病院の建て替えや設備投資をして利益を減らす

 病院の設備を新しくしたり、建物ごと建て替えたり、リフォームやリノベーションしたりすると、経費を大きく増やすことができます。理事長をバトンタッチするタイミングで建て替えや設備投資をすれば、後継者は気持ちよくスタートを切れるでしょう。従業員たちも心機一転して、新しい理事長を迎えられるはずです。

④持分なし法人に移行する

 持分ありの法人から持分なしの法人に切り替えることで、出資持分に対する財産権そのものを手放す方法もあります。

 平成26年10月1日から平成29年9月30日までの間の移行については、「移行計画の認定制度」が導入されます。一定の要件を満たして認定を受けた医療法人に対しては、2つの特典が用意されています。

 一つは、税制措置です。相続人が認定を受けた医療法人の持分を相続または遺贈(遺言によって贈与すること)によって取得した場合、持分にかかる相続税を猶予してもらえます。猶予期間は移行計画の期間満了までです。

 また、出資者が持分を放棄したことで他の出資者の持分が増加すると、贈与を受けたものとして贈与税が課される場合がありますが、これについても納税が猶予されます。

 もう一つは、融資制度です。出資持分の払い戻しが生じ、買い取りのための資金調達が必要となった場合、貸付を受けることができます。

 持分を放棄したい医療法人にとってはとてもありがたい制度なのですが、実は、認定を受けるためのハードルがかなり高いという難点があります。

 まず、認定を受けるための申請手続きそのものが非常に複雑です。公認会計士や税理士、コンサルタントなど、この分野に精通した専門家の手を借りないと到底できないため、その時間も費用もかかります。

 さらに、認定のための要件が厳しく、クリアできる医療法人は限られます。せっかく手間暇かけて申請しても、認定されなければ優遇は受けられず、結局は相続税・贈与税を支払うことになります。

 認定制度を受けたい場合は、平成29年9月末までという期限がありますから、早めに着手することが大切です。まずは、自分のクリニックが認定を狙える範囲内にあるのかどうか、その判断から最初に行うことをおすすめします。認定の見込みもないのに手を出しても、無駄骨になってしまうからです。

「うまく行けば認定が受けられそうだ。挑戦してみよう」となったら、実際の申請に向けて走り出してください。走り出した以上は確実に認定を受けられるよう、綿密に計画を立て、一つひとつの要件を着実にクリアしていってほしいと思います。

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