医師一家の生前対策

HOMEへ戻る

13の相続対策チェックシート 無料ダウンロードPDF

相続トラブル事例

ケース4 息子が後継を拒否。承継問題の行く末は……(ポイントを解説)

ポイント1病院解散・廃院は地域全体を巻き込む大問題

 病院を継いでくれると思っていた息子から、想定外の承継拒否に遭って、危うく後継者不在になってしまうという開業医もたくさんいます。

 病院を閉じるということは、世の中にとって実は開業医自身が考えているより、ずっと大きな問題です。

 都会なら近くに別の病院があるかもしれませんが、田舎に行けば病院の数は減ります。地域に1軒あるだけで、その次に近いのは車で20分以上離れたところという町村も多いと思います。そういう地域では、「そこに病院がある」「何かあったら駆け込める」ということが、人々にとってとても大きな安心材料になります。

 特に、これからはますます少子高齢化が進み、ひとり暮らしの老人が増えていきます。今まで歩いて通っていた病院がなくなると、彼らは車やバスや電車で遠くの病院まで行かなければなりません。若い人ならいざ知らず、高齢者にとっては大きな負担となるでしょう。

 ただでさえ「病院にかかりたいけれど諦める」という医療難民が増えていくことが懸念されているのです。後継者不在で病院を潰してしまうことで、こうした問題に拍車をかけてしまうことになります。

 病院はもちろん開業医のものではありますが、それと同時に〝地域の財産である〟ということをいま一度、心に留めていただきたいと思います。

ポイント2廃院でも、ときには1000万円以上のコストがかかる

 病院を潰すには次のようなお金がかかります。

登記や法手続きの費用

廃業にあたっては各方面に届け出をしなくてはなりません。従業員を雇用していて、社会保険の適用を受けている場合は、その手続きも必要です。

医療廃棄物の処分費用

 医療器具や薬剤などは専門業者に依頼して、医療廃棄物として処分してもらわなくてはなりません。

医療用検査機器の処分費用

 CTやMRI、レントゲンなどの検査機器は、まだ使えるものは中古品として買い取りしてもらえますが、古いものは廃棄になります。リース代が残っているものについては、その清算もする必要があります。

建物の取り壊し、原状回復の費用

 テナントを借りて開業している場合などは、建物を元の状態に戻して返還しなくてはなりません。土地を借りて自前の建物を建てている場合は、建物を取り壊して借地を返還することになります。契約の内容によっては、解約金・違約金などがかかってきます。

従業員の退職金
_

 雇っていたスタッフを解雇することになるので、各人に退職金を支払わなくてはなりません。

借入金の残債の清算

 病院に借金があれば、廃院までに清算が必要です。

 病院の規模や診療科目などにもよりますが、場合によってはトータルで1000万円以上かかるケースもあります。

ポイント3病院を潰すよりは第三者への承継を考えるべき

 後継者不在になってしまう理由として、Dさんのように「医師の子が跡を継ぎたがらない」というほかに、「医師免許を持つ子がいない」「そもそも子がいない」ケースがあります。

 そういうときは、

  1. ①養子をとって医師に育てる
  2. ②すでに医師になっている者を養子に迎える
  3. ③子が医師と結婚し、配偶者に継がせる

 といったこともできます。ただし、養子を迎える場合は、実子との間で感情のもつれが生じやすいという問題があります。

 親族のなかに医師免許を持つ人がいれば、その人を招いて理事長になってもらうとか、まったくの他人に理事長を継いでもらうことも可能です。そういう場合は、役職だけ「理事長」を継いでもらいます。いわゆる、雇われ理事長です。そして、出資持分は相続人に持たせます。理事長は医師免許がないとなれませんが、平理事なら免許がなくてもなることができます。

 これらができない場合は、M&Aという選択肢もあります。M&Aは、希望する相手に出資持分を買い取ってもらうことで、病院を承継する方法です。これなら廃院にかかるコストが必要ないだけでなく、病院の売却利益が入ってきます。また、病院を潰すことなく地域に存続させられます。

 ほかにもM&Aをすることにはいくつものメリットがあり、最近は積極的・前向きな意味合いで〝あえてM&Aを選択する〟開業医も増えてきました。近い将来、M&Aは医業承継のトレンドになるだろうともいわれています。

 親子で承継できないからと病院を潰してしまうより、誰か第三者に病院を継いでもらうほうが多方面でメリットが大きいですから、最後まで承継を諦めないことが大切です。

お客様の家族のように寄り添い相続の問題を解決します